Distanza



暖かな日差しが中庭に射していた。

いつものように、昼休みは昼寝をする時間だと、
そこに足を運んだ叶は、腰に巻いていた制服の上着を芝生に投げ捨て、
だらりと手足を投げ出すように寝転がっていた。

冬の日差しは温かいが風が吹くと少し寒い。

しかし叶のお気に入りのここは二年と三年の校舎に挟まれてる上に木々に守られるためか、
冷たい風が吹き込まない。

柔らかな日差しだけが惜しみなく降り注ぐのだ。

綺麗に清掃された中庭の一角には、
花壇がありそこに咲く花を見るのも叶は好きだった。



「気持ちいい…」



芝生の上で仰向けになり、まるで光合成でもするかのように手を太陽にかざした。

眩しくて細めていた目が自然とそのまま閉じて、体で太陽の光を感じる。


柔らかい芝生は中々快適で、土も太陽の熱を蓄えほんのりと温かく
叶が柔らかな日差しに意識を手放そうとした時、
瞑っていた目に透けていた太陽の光が急になくなった。

「・・・?」

「・・・何してるんだ?お前」

そして降ってきた聞き覚えのある声にうっすらと目を開ける。

「・・カナちゃん・・・?」

「ちゃんって言うなってんだろうが。」

目を開けると自分を覗き込むように見てくる要の顔が直ぐ側にあった。
金の髪が太陽の光に透けて、目を楽しませる。

すっと目を細めてその金色の髪に手を伸ばそうとすると、パチンっと手を叩き落とされた。

「勝手に触るんじゃない。何様だお前。」

「だって・・キレイだから。」

目を細めたまま口の端をうっすらと上げ、
本当にキレイなものを見るかのように言う叶に要の体がヒクリと震える。


ストレートな言い回しの叶に、チッっと舌打ちをして叶から視線をそらす要。
そんな要のことなどお構いなしに再度手を伸ばして叶はたずねてきた。

「触りたい」

「ふざけるな」

要の髪に触れるか触れないかの位置で止まるその手には
いつも機械を弄っている時の軍手はない。

チラリとその手を盗み見てから叶に視線を戻せば、まだ笑みを浮かべたまま。

「カナちゃんの髪はきれいな色。それに俺の髪硬いから柔らかくて羨ましい」

触れるか触れないかわからないその距離のまま、髪から頬を撫でるように手を動かされれば。
居たたまれなくなって、要はその場から立ち去ろうと、立ち上がろうとした。
触りたいなら無理にでも触ればいいものを、叶は絶対に許可と思わしき返事がないとそれをしない。

ストレートなもの言いも、
そんな叶の性格も要には扱いづらく時折高鳴る鼓動をごまかすたびに舌打ちをしていた。

「・・ッチ」

「・・何処いくの?一緒に昼寝しよう?」

「生憎オレはお前ほど暇じゃねぇんだよ。どこぞの暴君が使った経費分をやりくりしなきゃなんないんだ。」

「カナちゃん」

ぐいっ

立ち去ろうと翻した要の服を叶が握り締める。

「離せよ」

「カナちゃん」

「・・・・」

「ねぇカナちゃん」

こういう強引さはいらないんだよ・・。要は眉を潜め、極力不機嫌な顔を装う。

「離せ、寝たきゃ勝手に寝てればいいだろ?」

そういえば、叶は暫く要の顔を見た後に握り締めていた手を更に強く握り引っ張ろうとし要は慌てたように声を出した。

「なっ!離せって言ったのが聞こえないのか津田!」

「・・違う。」

「何がだ?!いいから離せ!」


「一緒に行く」


「・・・・・・・・・・は?」


小さく呟かれた相手の言葉に要は叶の顔を見返す。
聞き間違いかと思いそのまま言葉を待てば再度念を押されるように言われしまう

「カナちゃんが忙しくて此処に居れないなら、俺が側に行く」

滅多に見せない叶の真面目な顔。

「本当は此処の方が、カナちゃんの髪が綺麗だし、温かいし好きなんだけど・・」

そういいながら立ち上がる叶の顔を視線で追えばいつの間にか見上げる高さ。


「側にいていい?カナちゃん?」

「・・・・。」

クッっと要は喉を鳴らす。

あぁ本当にむかつく。
毎度毎度のことながら、
何故中庭で寝ているコイツの姿を見たからと行って此処に足を運んだ?

「ねぇ?いい?カナちゃん?」

「触るな」

叶の手が頭に伸びてきたのを、半分八つ当たりのように睨んで静止させる。

「あと、ちゃんって言うなよ。俺のが年上なんだからな。」

女々しい自分なんか嫌いだ。
男はどっしり構えるくらいが丁度いいんだからな。

毎度毎度・・・。

流されて、それがうれしい自分が居る・・・。

(女々しくて嫌になるな・・・。)

「・・・。」
「来るなら勝手にしろ。」
「うん。」

ずんずんと苛立つように歩いていく要はチラリと叶を一度見たあと振り返ることなく生徒会室へと足を運ぶ。
その後ろを歩く叶がクスリと笑うのに気づかずに・・・。



「カナちゃん・・・。女々しいなんて思わないで。」



目を合わせてもくれなかった初対面。
話せば無視された1週間。
返事をしてくれて、話してくれて、今では自分を見つけると話しかけてくれるようになった。

(もう少し・・・あと少し)


確実に2人の距離は縮まっている・・・。

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