Io lo do



双子なんて厄介でしかない。

「・・翔、俺の部屋で何をしてるんだ?」
「あ?何って・・・」

見ればわかるだろ?と言いたげに床に広げた菓子とゲーム機を俺に見せるのは、双子の弟の翔。
学園きっての暴君と噂のそのどうしようもない愚弟は、
その足りない頭では言い訳も思いつかないのか、それ以上言葉を続けるわけでもなく笑ってみせた。

その態度にいつものことだと、ため息をつきながら風呂上りの濡れた頭をくしゃりと拭ぐえば
翔は自分の隣をベシベシと叩く。

「・・・床に座れって?」
「別にいいだろ?早くしろって。」

半ば強引な物言いに再度ため息をつくと横へと腰を下ろした。
そして気づいた。


「・・・・」
「どうした?」
「・・・なんで俺のベットにお前の枕まであるんだ?」
「なんでって・・なぁ?」


そういって困ったように笑う翔の腕に抱きこまれながら、
何を見るわけでもなくその枕を眺めてからポソリと呟いた。

「翔」
「ん〜?」

翔の返事ははっきりとしていない。
ただ俺の肩に額を擦り付けて苦笑を隠すばかり・・・。

「俺はどこか変か?」
「・・ん〜・・なんで?」
「・・・」


部屋を見渡せば、いつも付けたままのPCの電源が切ってある。
風呂前に読んでいた読みかけの本も机の上から消えて、
変わりに一番好んで飲む紅茶。
ベットには枕。
床に散らばった菓子は高級なものから安価なものまで・・・
それもあまりそういった物を口にしない自分が、進んで口に出来るものばかり。


「そういえば、今日は帰りも別だったな・・。」
「・・・」


いつもは翔が帰ると言えば、仕事を投げ出してでも連れて帰られるのに今日は違かった。

今日は何から何まで翔が自分の行動を先回りしてくれる。

こんな時は大概、俺の何かがおかしくなっているんだ。
それこそ自分にさえ分からないのに、翔には分かってしまう。
その些細な何か

「翔、俺のどこがおかしい?」


渋る翔に
詰め寄るように問うと、困ったような笑みをさらに崩して濡れた前髪をかきあげられる


「しいて言うなら」

「・・言うなら?・・。・・・・早く言え。」

「・・なんでお前泣きそうなの?」

「・・・」

翔に言われた言葉に、思考が停止する。
体がヒクリと揺れたあと動かなくなった俺の体をそっと離す翔の顔が視界の隅にうつった。


「・・あ〜訂正。なんで辛そうなの?」


泣きそう?辛そう?
馬鹿を言うな、そういってやりたかったのに
その言葉があまりにもストンっと自分の中に納まってしまって何もいえなかった。

あぁ、俺は泣きそうで、辛そうで、情けない顔をしていたんだな。
納得してしまえば、無意識で抑えていた感情がこぼれるのに時間がかからなかった。

「・・眠い・・。」
「おっ、ちょ!・・・薫?」

離されていた体を無理やり翔へと預けようと傾けると
翔は慌てたような顔をしてからクスリと笑って抱きしめてきた。
翔の心音にうつらうつらとし始めながら、
そういえばここ1週間ろくに寝てなかったことに気がつく。
暖かい体温と抱きしめられて居る安心感に弱音もポツリ、ポツリ。

「全国模試・・・・・。・・皆神先輩に負けたよ。」

ん?っと首を傾げて見てくる翔に視線を合わせたくなくてその肩へと顔を埋める。

「皆神先輩の2年の時の最高点499点だって・・。・・・1点負けた。」

凄く、悔しい・・。そう呟くと心底あきれたようなため息が横から聞こえた。

「は〜・・またお前そんなどうでもいいことで凹んでたのかよ?」

どうでもよくない!そういいたかったが翔の唇が髪に落とされ言うタイミングを逃してしまう。
抱きしめてくる腕に力がこめられて、悔しかったんだ。と再度呟くとうん。とやさしく頷かれた。

負けたくなくて、完璧で居たくて寝る間も惜しんで勉強したのに、負けてしまった。
だから、もっとと思ってまた勉強をしたけど気持ちが落ち着かなかった。

翔だけが気づくそのSOS

気持ちを表面に出すのが苦手な俺だから・・・、

かわりに翔が教えてくれる。


「翔」
「ん〜?」
「ちょっと寝る。起きたらもう一度やってみる」
「ほどほどにな?」
「わかってる・・・。」

おやすみ

そういった俺は床の上だと言うのも忘れて翔るの腕の中で眠りについたのだった・・・。






















***おまけ***

「最高点499点。あんた薫に嘘ついたろ?」
「あっれ〜薫君本気にしちゃってたの?かっわい〜なぁ」

あはは、っと笑う目の前の変態を殴りたい・・・。

なんでか知らないが薫はこの変態に絶対の信頼のようなものを持っている。
このすべて嘘の塊みたいな変態をだ。
憧れだの、目標だの言っていたが冗談じゃない。

「あんたの玩具は暁と1年坊主どもだけにしておけ。心底迷惑だ。」

ヘラヘラと笑う千迅の笑みが薄っすらと陰るとその変態の手が首へと回され俺は少し見上げるようにして相手を睨んだ。

「でも、薫君にとって為にならないことはしてないよ?やる気になってくれてるでしょ?」
「・・・妥当変態をか・・・」

「ううん♪」





完璧ヲ 君ニ 贈ル為ニ・・・。






世界が一気に朱に染まった感覚を味わった・・・。

くそ・・変態め・・・。






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