学力に関する考察
 




 期末試験が終わり成績発表を翌日に控えたある日、
あの会長という名の暴君から呼び出しがかかった。

嫌々ながらもその強制力に抗えず生徒会室の扉を開けて、慎之助は心底後悔をした。


 「………何してんですかあんたら…揃いも揃って…」



 室内にはものの見事に生徒会メンバーの全てが揃っていて、珍しく円卓を囲んでいた。



 「これで全員か…。慎、お前の席はミツの隣だ。早く座れ」



 ホワイトボードの前に陣取った暁がその向かい側を指し示す。



 「慎!ここだよ!」

 「あ、ああ…」



 バシバシと椅子を叩き席に着くよう促すミツ。
空席を挟みその隣には眠そうな顔をした叶。

慎之助が慌てて席に着くと
それまでソファーにふんぞり返って何かの書面を眺めていた例の暴君がゆったり立ち上がった。



 「やっと揃ったな…。遅すぎる!慎之助!!最後に入った罰だ!後でそこの変態の後始末しとけ!」

 「はあ!?!?遅すぎるってあんた…。メール見てすぐにこっち向かったんだけど…」

 「俺の要求には3分以内に応えろ。薫、時間は?」

 「…メール送信から15分…」



 キーボードを叩きながら副会長が面倒臭そうに応える。



 「3分以内って…俺の教室からどんだけ離れてると思って…
ってかなんかものすごくこっち見てるんですけど!!」



 暴君こと翔とのやりとりに慎之助が必死になっていると、
先ほど罰のネタにされた変態…千迅が胡散臭い笑顔でこちらを見ていた。

その眼前の白壁いっぱいになにやら怪しげな模様が描かれている。



 「片岡くん、僕の作品をどうするつもりかな?」



 後始末とはすなわち壁の落書き…作品を消すこと。



 「片岡、白ペンキならここにあるぞ」

 「いやいやいや!!それあんたの役割でしょう!?」



 暁がどこから出したのかにこやかに白いペンキの缶を掲げている。常備しているのか?



 「もう!!皆神先輩も暁も何いじめてんだよ。
翔も翔だ。慎にかまいたいなら用事が済んでからにしろ!今日はコレのための集合だろ」



 四面楚歌の状態で慎之助があたふたしていると柳眉を逆立てた要がなにやら怪しげな資料を示していた。
A4サイズの冊子の表紙には朱で大きく『秘』と記されていた。



 「なんですか、それ…」

 「全員分あるから…。蓮、ちょっとこれまわしてくれ」

 「ん、りょーかい」



 それまでやけに大人しく事を見守っていた蓮がだるそうに資料を配る。

どうしたのかと気になったが、資料を1ページめくって慎之助は納得した。
資料には全校生徒分の試験成績とその順位が示されているらしい。

蓮は試験とかそういった『試される』ことを嫌う。



 「よし、全員もらったな。要ちゃんもピーピー煩いことだし、
始めるか。皆大体見当はついてただろうが、恒例の成績会議だ。暁、説明!」



 要が盛大に睨み付けていたが、
全く意にも介さず面倒なところを暁にまかせた翔は資料を眺めながら何やらにまにましている。



 「先輩を付けろ先輩を…。
あー、じゃあ今回初めての1年生3人の為にこの会議の趣旨を説明しよう。
俺達生徒会役員は職務のためなら授業を休むことを許されているのはもう知っていると思う。
しかしそれは教師陣とのある取り決めの上に成り立つ特権だ」

 「取り決め?そんなのあったんですか???」



 慎之助よりも長く学園にいて、生徒会にも古くから付き合っているミツや叶も知らなかったらしい。
小首をかしげ暁の話の先を促す。



 「ああ。取り決めとはすなわち成績の維持だ。
国語系、数学、英語系、理科系、社会系の科目で試験順位100位以内
プラス総合成績50位内。これに相当しないものは特権剥奪」



 「ま、私たちの意地みたいなとこもあるんだけどね〜…。
ノエちゃん見た目こんなだしぃ〜?なんか目付けられてた時代もあったわけ。
だから黙らせてやろうかなって…」



 いつもに増して輝く笑顔で聖夜はさらっと言ってのけた。



 「あんたら毎回それ守ってたんですか!?」

 OHSは1学年1000人以上いるマンモス校だ。
学校自体のレベルも高く、その中で上位50人に入るのは容易なことではない。



 「当たり前だ。それくらい大したことではない。
その程度のことで仕事が円滑に進むようになるなら万々歳じゃないか」

 「大したことじゃないって…。そりゃ副会長は頭の出来がずば抜けてるから…」



 不思議ではない。しかしどう考えてもこの濃いメンバー…。
こういっては失礼なのかもしれないが決して勉強が出来そうとは思えない人物もいる。

慎之助は慌てて資料をしっかり見直した。
1枚目は3年。その最も上にある名前、
すなわち総合トップは______皆神千迅?

皆神?

千迅???



 「あんたいっつも1年の教室にいるくせになんでこんな成績いいんだよ!?」

 「え、何何〜???」



 ちゃっかり叶の隣に納まり頭を撫でてご満悦状態だった千迅は急に大声でつっこみを入れられ肩をびくつかせた。
間に挟まれた叶もとばっちりで目を丸くしている。

 千迅は叶をいたく気に入っているらしく、気づいたら1年の教室に紛れ込んでいる。
教師陣が何も言わないのは諦めかと思っていたが、その裏にはこの成績があったのだ。



 「ちーちゃんってば実は規格外に勉強できちゃうのよね〜…」

 「信じたくないが3年で一番出来るのはこの人だ…。これで言動やら行動やらがしっかりしていれば…」



 暁が心底残念という感じでため息をついた。



 「暁くんそれ褒めてるの?けなしてるの?」

 「暁はちーちゃんのことが心配で心配で仕方ないんだって。
ちーちゃんってば想われてる〜!!私妬いちゃいそう!!」

 「なっ!!!誰がそんな…!!!聖夜!やめろ!!冗談でもこの人を煽るんじゃ…」

 「もー、しょうがないなー。
津田くん、暁くんがどーしてもかまって欲しいらしいから例の創作の話はまた後でね…」

 「…アレの話はいつでもいいから…。行ってあげて…」

 「ちょっ!?アレって何だ!!って津田まで何言ってるんだ!
来るな!来なくていい!!だーーーー!!!落ち着け!!ちょっと落ち着け!!」



 名残惜しそうに叶の隣を離れた千迅は恐怖の大王よろしく、
暁の下へ筆を片手に向かって行った。
触らぬ神に祟りなし。ここはあえてスルーしておくべきだろうと慎之助は判断した。



 「あー、もう!!進行役が潰れちゃったじゃないか…。聖夜、後始末しろよ…」



 要が舌打ちとともに冷ややかな目線をはしゃぐ2人に向けていた。



 「ほっときゃ飽きるわよー。にしても…要ちゃん今回も余裕ね」

 「ちゃんって言うな!
…まあ俺は日ごろから真面目にこつこつやってるからな。
それなりの成果だと思ってるよ」



 3年で次に目に入ってきたのは要の名前だった。
千迅のトップの影に隠れてしまっているが、10位内に名前があるだけでも十分にすごい。



 「今の時代アイドルも頭ないとやっていけないもんね〜…。さすが私のライバル!ちゃんと磨くとこ磨いてるわね」

 「勝手にライバル視されても困るんだけど…」

 「何!?要ってばこの可愛く賢いノエルちゃんじゃあ不足だって言うの!?」

 「いや、だからそうゆうことじゃなくて…ってなんで俺が責められてるわけ?意味わかんないんだけど!?」



 ファンが見れば泣き出しそうな光景だった。
……………まさにキャットファイト…。

 不毛な鬼ごっこを繰り広げる千迅と暁、
さらにわけのわからない言い争いを始めた要と聖夜。
正直馬鹿としか思えない行動だが、それでも4人とも資料を確認すれば約定通りに名を連ねていた。




 「ほんとなんなんだこの人ら…」



 考えただけで頭痛がする。
 そしてそれぞれに傍観を決め込む双子の姿にも頭が痛くなった。
一方は絶対零度の瞳で事を見据え
、一方は何かよからぬことを考えていますといった顔つきで成り行きを見守っている。






 この人たち一体何をするつもりだ_____???










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