start〜片岡慎之助編〜




食堂から怒鳴り声が聞こえる。

あのまま食堂に居てもよかったのだが、
周りのざわめきと 向けられる視線に耐え切れなくなって
ミツと叶を連れ立ってオボンを片手にテラスへと出てきていた。

この学園のテラスは3階にあり、学園も高台にあるためか、
学園の木々と広い敷地に多少さえぎられているが 眺めはそこそこよかった。

白を基調とした格子の脇には細かい細工もあり、
落ち着いた雰囲気ながらにも、こだわりを感じる作りになっている。
椅子と机も白で統一され、プラスチックながらもデザインはよかった・・。

そんなテラスの一角。
まだイライラとする内心を押さえつけて黙々と食事を勧める慎之助を
ぼうっと見つめる叶が不意に口を開く


「どうした?」


どうしたの何も!っと八つ当たりをしそうになるが押し留まり
ムスっとしたまま答えた。


「何なんだよ、あいつら。あいつらに関わってからの周りの目がウザイ」

「あいつらって薫先輩達?」


薫と言われた先輩にちゃっかりと、もらったホットドックとサラダのセットを
慎之助の前に座ったミツが口に運びながら
きょとんとして続けた。


「あ〜あの人達生徒会だから仕方ないよ。
俺は中学生の時からだからもう公認みたいなもんだけど、
慎は新入生だからみんな嫉妬してるんじゃない?」

「は?嫉妬?」


・・・というか聞き間違いか?
今生徒会と言う言葉が聞こえた気がする・・。


「吉良翔(きらかける)、2年で現役生徒会長。同じく吉良薫(きらかおる)、翔先輩の双子で生徒会副会長」


隣の席でサンドイッチを上下別々にして食べるという荒業を披露しながら
ボソボソと説明する叶の言うにはこうだ。








ここは中高一貫教育ということは部活紹介でも言っていたが
その双子は中学の頃からずば抜けて目立っていたらしい。(というか翔が)

中学の頃から人気は上場。

高校に入ると率先して生徒会長に立候補した翔に票が集まるのは言わずもわかるだろう。

学園創設以来初の1年生徒会長となったらしい。

そして生徒会役員は会長の指名制になったのも翔が生徒会長になってからだそうだ。

部活紹介の時に壇上に居たあの2人は3年なのだそうだが、
あの2人も翔に指名されたのかと思うと同情の念さえ浮かんできた。


「でも生徒会はすごいよ?横暴かと思うけど、結構生徒のために何だかんだで動いてくれるし。」

「・・時々、思いつきがある」

「そうそう、中学の時は中高一緒に肝試しとかやったよな〜?
叶ってば生徒会に頼まれてお化けの仕掛けいっぱい作ってたじゃん?」

「あれは楽しかった」


よくわからなくなってきたが、
とりあえずこの学校では生徒会の力は大きく影響するということらしい。

説明途中で思い出話に花を咲かすと思っていたが、
思い出したかのように、ミツがパンを口に押し込むと立ち上がった。

シュタっと効果音が付きそうなほど切れよく手を掲げるとパンを飲み込んで言った。


「ごめん、オレ生徒会の仕事あるから行くよ。
あ!つうか慎、生徒会にあまり近づかないようにね?特に人気の先輩になると親衛隊とかいるから!」


・・本当にわからなくなってきた。親衛隊って何だ?
色々まだ話をしたかったが、相手も急いでいるようだったので とりあえず聞き流すように小さく返事をしながら見送った。

慎之助は残った昼食を水で喉へと流し込んで叶が食べ終わるのを待つことにする。


生徒会制度。
外部入学制の少なさ。。
風紀検査のことや、親衛隊、それにあの双子の生徒会上層部。

色々まだ、自分にはわからない、この学校特有の習慣があるらしい。
今更ながらに、来る高校を間違えたのではないだろうかと頭を悩ませた。


「慎は大変だ。気に入られてる、きっと」


ぼそりと叶が意味深気に呟く声が聞き取れず聞き返す


「え?・・・って叶!何野菜だけこっち避けてんだよ!サンドイッチの意味ないだろ!」

「ドントマイン、食パンが食べたかった。」


購買に行けよ!!という突っ込みもむなしく、
すべての野菜を慎之助の皿に移し終えた叶は
いつものぼうっとした顔のままの癖になぜかやりきった!と言うように笑ったように見えたのは
慎之助の見間違いだったのだろうか?

















********************








生徒会室


「ね〜薫〜明日出ていいわけ?」

「・・えぇ。生徒会補佐も呼んでおきましたから、好きに使ってくださって構いませんよ。」


黒と白を基調としたその部屋は、観葉植物が所々にかざってある。

その奥にいちする会長席と書かれたデスクの横で、一人の少女と薫が何やら話をしていた。
少女の銀色の髪が光りを反射している。
白く長い指がくすりと上品に歪む唇へと添えられた。


「やっと私の番ね?好き勝手やっていいんでしょ?薫」

「あいつでフォロー仕切れるくらいにしてもらえるなら。構いませんよ。聖夜(セイヤ)さん」

「もう!ノエルって言ってっていってるでしょ?」


薫が伏せ目がちに呟き笑えば、待っていましたとばかりに銀色の髪がさらりとゆれる。
短いスカートがふわりと舞ってそこから伸びるガーターが目を引いた。


「ふふ、まぁいいわ。折角のノエちゃんと慎ちゃんの初対面だもの。
気分いいから許してあげちゃう。
それにノエちゃんあの子はここに必要だと思うの。」


捕獲しちゃうんだから・・・。


くすくすと笑い生徒会室を出て行くその姿に薫は溜息をつく。
少し時期を早まったか?と思うも、あの人に出てもらわないと始まりもしないのだとあきらめた。


後は・・・


「何かあったら後始末は頼む」


こちらからは見えないソファから、かすかに見えるピンクと黒い髪に向かってそう言えば
了解とばかりにその人物は手を振るのであった・・。




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