start〜片岡慎之助編〜




***突然の勧誘者@***






波乱の入学式から1ヶ月

桜の花ももう散ってしまい、葉も青く成りはじめている。

他の生徒は中学時代から何かと高校校舎には入っていたらしいので
勝手はわかるようだが、
慎之助はようやくと言ったところか。

相当慌しかったこの1ヶ月の様子なんて語るのもおぞましいと思う。


入学式から3日目には通常授業がびっちり6時間目まで当たり前のように行われ
体育館、武術間、柔道場、
運動場に各専門教室とまるで迷路の中に居るような移動教室にも苦労した。

学力テストもあって、ミツが見かけどおり馬鹿なのが発覚して笑ってやった。

叶は50位以内には入っていて、慎之助はというと100位以内。
まぁ中の上って所か?

4月終わりにはミツの補習もあってようやく5月に入って、
のんびり落ち着いた学園生活になってきた所だ。



「そういえはシン、そのズボンの鎖やめた方がよくない?そろそろ風紀指導はいるよ?」

「は?」


昼休み、ようやく半分授業が終わり食堂に向かう前の一呼吸と、
ぼぅっとしながら 横で寝ている叶を見ていれば
ひょっこりと現れたミツにそういわれた。


「つうかそういうお前はどうなんだよ?」


自分の服装を見てから、あからさまに違反だろう ミツのパーカーとズボンに付いた結い紐を指差してやった。

するとミツは
あぁ!っと一つ手を打ってからニカっと笑い嬉しそうに組み紐に指を絡ませ見せてきた。


「俺はいいの、先輩達の許可もらってるし?その分仕事してるから。」


まったく意味がわからない答えに眉を顰めると
いつの間に起きたのか叶が欠伸を一つしてから補足説明をしてくれる。

このミツの大ざっはな言い回しに、叶が補足説明を入れるやり取りが1ヶ月も続いて
慎之助も、もう日常として受け入れていた。


「生徒会に認められれば服装は自由。その代わり生徒会バッチ着用だけど。」

「俺、生徒会はいってないけど、たまに手伝わされるんだ!中学の時から!」


どう?すごくね?っと、
褒めろとばかりに笑っていうミツに、半ば圧倒されてしまい
どう言葉を返していいかわからなかったが、とりあえずその笑顔に


「すごいな・・。」


と、かえしておいた。

認められればってなんだ?
生徒会がOK出せば校則関係ないのか?

色々な疑問が浮かんだがそれが口からでることはなかった。












********************









「今日何食う?」

それから、すぐに他愛もない話をしながら食堂へと来た三人は食券機を前に何を食べようか話しつつも
今日は一段と騒がしい食堂に何かあるのかと首を傾ける。

しかし、この学園は変人奇人が多いと評判の学園。
いちいち気にしていたら埒が明かないので気にするのはやめておいた。


「・・オレはサンドイッチ」

「じゃぁ俺はコレ!!!」


叶に続いてミツが食券を買おうとすると後ろから静かな声が聞こえてきた。



「・・・・俵屋」

その声とともに周りの生徒が、ザワリとどよめく

しかしミツは、その声を聞くとヒクリと体を揺らし食券を買おうとしていた手を止めた。
そして直ぐに声がした方向に向き直ると、今までで一番無邪気な笑顔を作った。



「薫先輩!!」


薫と言われた生徒は、叶と慎之介を視線だけでチラリと見てからミツに向き直り、
先と変わらず静かな声で続ける。


「今日昼食を取ったら生徒会室に来れるか?」


犬だとしたら、はちきれんばかりに尻尾を振っているだろうミツを目の前に淡々と話を進める薫。

委員会の手伝いが足りないのだと言うが、
そんな面倒臭そうな仕事でも嬉しそうに頷くミツを見て少しムっとした。

薫の手には食券。

ミツにあげるらしいそれをチラリと横目で見るも、次第に何か思い出していく。

食券を持ったその手。
入学式の時に自分の手を引いたあの手に似ている・・・。

それにあの漆黒の綺麗な髪に射抜くように赤い目。

口元の挑発的な笑みは消えていて、反対に冷たい印象をまとっているが
何処かで見たことが・・・・。












「あんたはたしか吉良翔!!」



「・・・、…違う」



入学式の記憶のフラッシュバックに思わず指を刺して相手を見ると
ミツに対して話しかけていた声とはかけ離れた更に静かな声が返ってくる。

それに冷たい、と言うか感情のない視線にヒクリと自分の肩がゆれたのがわかった。

ザワリとする周りと目の前の薫という先輩。

その雰囲気に総無視を決め込んでニコニコと忠犬よろしくちゃっかりと食券をもらっているミツに
助けろと視線を向けるが気づいてはくれなそうだ・・。

そんな中、さらに一際人がざわついたと思えば
いつの間にか周りを囲んでいた生徒が道を作り、一人の生徒を避けていく。

そして入学式を再現するかのごとく、いきなり視界に現れる人物に目を見開いた。



「お?慎之助じゃねぇか?」

「なっ!?」



そして言葉を続けるより早くその人物に抱き着かれて視界を塞がれてしまった


「入学式ぶりじゃねぇか?相変わらず辛気臭ぇ顔してんなぁ」


吉良翔!


言いたかった言葉を言わせて貰えずに、力任せに抱き込まれ、乱雑に頭を撫でられる。
このふてぶてしい態度は間違いようがない

回りから悲鳴のような奇声も聞こえるが、
何よりこの馬鹿にしたような口調は奴のだとわかり気分が低下していくのが分かった。。



「つうか薫酷くね?独り占めはなしっしょ?いつもどうり半分づつって言っただろ?」

「・・・俺は俵屋に用があっただけだ」



やっぱり吉良翔は自分には合わないと再認識するも、フと思う。
じゃぁミツに食券あげてた奴は誰だ??

疑問を見つけ首を捻って居ると抱きしめられたその腕が離れたのに気付いた。



「どうした?」

「…あんたら同じ偉そうな顔して…双子?」



慎之助の言葉にザワリと食堂のギャラリーがざわめく。

そのざわめきに慎之助が逆に何かまずいことを言ったかとギョっとした。

しかしニヤニヤと笑いながら薫に目配せをする翔と

その横で顎に手を当てて見下したように凝視してくる薫に、ただただ沈黙する慎之助だった。




「…なるほどな、確かに新鮮な反応だ」

「だろ?俺達にこの態度だぜ?マジ生意気だろ?」

「今まで居なかったタイプだな・・・」


二人にジっと見られれば、自然に足が後退するのがわかる。


「しかし、面倒そうなタイプだな。煩く面倒な奴は似たくもない片割れだけで手一杯だ。」

「お?そりゃぁ告白かよ?薫」





どうやら慎之助をかやの外で二人で会話を始めたらしい。

相変わらずミツは薫の横でニコニコしてるし、
叶にいたっては既にそこから離れて席取りをしていた。

なぜか向けられるギャラリーの視線が痛い。

居たたまれない気持ちと、
自分の事を勝手に推測し、かやの外にされた苛立ちで、直ぐにでもこの場を去りたくなってきた。

しかしマイペースな友人の助けは期待出来ない上、疑問が山積みだった。

相変わらず二人で話す薫と翔の口からは、
なんの話しですか?と言いたくなる単語が出てくるし、

よく見たら同じ黒髪に赤い目。

背丈も変わらない。

違うのは制服と雰囲気といった所か。

そういえばさっき片割れって聞いたような…
そこまで考えたが面倒になり考えるのを止めることにした。

ぐいっと翔と薫を押し離してからミツを見る



「ミツ、食べるの決まったなら行くよ」


自分もそそくさと食券を買うと二人の先輩を無視するように、昼ご飯の受け取り口へと足を向けた


「あ…おい!慎之助」

「気安く呼ばないでください。どこぞの先輩」


キッ睨むように見てから
どこぞのを強調しながら言えば、翔は文句を言いつつもまたケラケラと笑っている。

それがまたカンに障ったがあえて無視をして早足にその場の人ごみを掻き分けて去ろうとする。

チラリと視線だけで振り返れば、
薫が口元を歪め笑むのを見て、翔の笑みを見た時とは違う感覚が背筋を駆け上る

その笑みが慎之助の心に僅かだが、確実に引っ掛かった。



あの冷たい眼差しはなんなんだろうか…










**********



**********








入学式面白れぇ奴を見つけた。

それが吉良翔の正直な感想だった。

自分を見ても媚びるわけでも、落しにかかるでもなく。

ましてや怯えもしないで刃向かってくる奴なんて生徒会メンバー以外じゃ初めてだったのだ。

入学式当日、慎之介を教室に送り届け、
直ぐに生徒会メンバーを集めてそれを報告したら他のメンバーも
入学式に出なかった生意気な新入生が気になっていたらしい。

(まぁ暇人ばっかりだからな。)

風紀委員長のノエルは直ぐにでも接触しようと言って来たが
間を開けることにした……

罠は張る段階から楽しまなきゃ損だ。
じっくり楽しむことにしよう…














「で?今のがお前が言ってた片倉慎之助か?」




一ヶ月ぶりの接触。

態度は相変わらずでやっぱり面白い奴っと言うことは確認できた。

(・・・制服の改造…はいいとして。)

携帯がある形跡はないな。制服のボタンも裏ボタンを変えてあるなんてことはなかった。


「ベルトと鎖だけかよ」


どうしてわかったかなんて翔に対しては愚問だろう。

そのための熱い抱擁だったのだから…
意外に風紀に引っ掛かりそうな点が少なくてガッカリしていれば、
先ほどから隣にいる少年の話にまったくの無反応になっていた。



「おい!・・おい翔!聞いてるだろ?」

「ん?・・・あぁ、悪い要(かなめ)ちゃん」


隣に居た要と言われた金髪の小柄な少年は
薫が食堂を後にするのと入れ替わりでやってきた。

慎之助達が居なくなると直ぐに一人食堂をあとにした薫に
飯は食ったのか?
と疑問に思ったが、薫がこんな人ごみの中に来ること自体珍しいことなので
本当にミツの呼び出しに来ただけなのだろう。

物でばかり釣ってないで生徒会に引っ張り込めば楽だろうにっと
不器用な双子の片割れに対して苦笑していれば
また無視されて頭に来たのか視界の端に居たはずの要の体がフッと消えた。

次の瞬間目の前に現れる足。

翔は髪に足がかするのを感じながらも、すんでの所で避けた自分を褒めてやりたかった。


「あっぶね。」

「お前先輩の質問には答えるもんだぞ!つうかちゃんって言うな!」


翔より頭1つ分くらい低い身長から出されたと思えない蹴りは翔の頭上を通り抜ける。

金髪の髪がキラキラと光り、意思の強そうな目が翔を睨んだ。

要と言われたその少年は見かけの可愛らしさとは似ても似つかない性格のようで
名前を松本要(まつもと かなめ)と言った。


「そんな態度だとお前に頼まれた追加のコレ、却下するからな。」


きっちりと着崩しのない制服を再度しっかりと治して要は小さい封筒を翔に差し出す


「お、流石要先輩じゃん?もう出来たのかよ?」


その封筒を取ろうと手を伸ばす翔の手を封筒で叩いて見上げるように睨む
余程のことがない限り、けじめを付けれるなら勝手にしろと放任主義の要なのだが
今回のことは違ったらしい。
手の中の封筒を握り閉めれば、手に当たる3つの金属の感触。


「オレはまだ反対なんだからな。お前らがどうしてもって言うから仕方なく・・」


睨んでいた目を伏せるように地面を見つめ唇をかみ締める姿に
翔は少なからず引かれるものを感じて

流石は学園の2大アイドルと小さく口笛を吹きそうになった。・・・が

握る拳が視界に入ると
女子供扱いが嫌いなこの先輩に今はその冗談はやめておこうと苦笑する・



「ん、OK、OK。要ちゃんの愛はオレにちゃんと伝わってるから大丈夫だ」


だからと言ってこの冗談もどうかと思うのだが・・・。


「はぁ?」

「ようは、生徒会の人数増えるとオレ様の愛の割合が減るのが寂しいんだろ?」


一瞬キョトリとするその顔もまた人を引き付けるんだろう、
しかし直ぐに怒りをあらわにする要に、
あ、やべっ!と思うのもつかの間、食堂に怒鳴り声が響いた。


「テメーら変態共とオレを一緒にするんじゃねぇ!!」


騒ぎ立てる要は暁を呼んでなだめてもらうとして、
隙を見て奪い取った封筒をポケットにしまって翔はニヤリと口端を歪めるのであった・・・。













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