start〜片岡慎之助編〜












散々な入学式当日だ。


本当迷った理由だってなんてことはない、
校門を潜って始めに向かった先が真逆だっただけだ。

なんせ手を引かれながら、通ったはずの校門の前を通り過ぎたのだから。

そこから直ぐに赤いレンガの建物が見えていて
自分でも何故迷ったのか不思議なくらいだった。

そんな事をブツブツ呟いていればば、
教室の前まで連れて来てくれた張本人は当たり前のように胸を張る。


「ばーか、俺に探して欲しかったんだろ?」


どこからそんな自信と俺様発言が出てくるんだろうか、とちょっと頭を疑いたかったが、
そんな事を言う時間もないので


「ありがとうございました」


と一礼して教室に入ったのだった。
ああいう人間には極力関わらないに限る・・。






そこまでの間だけでかなり疲れた気がする。

教室に入ったとたん、人の良さそうな担任の教師に心配され、
クラスメートにも囲まれてしまった。

中高一貫教育のこの学校の高校入学生は数人なんだそうだ。

その新入生が入学式に欠席したのがよほど物珍しかったらしい。

物静かに過ごす予定の学園生活が1日目にして注目の的。

明日からの学園生活に不安を覚え始めていた時に後ろから襟をグイっと引っ張られた。



「ほらほら!お前ら新入生がこわがってんだろ!ちょっと休ませてやれって!はい!は〜い解散!解散!!」



自分より背の小さい相手に軽く襟を引かれ支えられたことに多少ショックを受けつつも
その人物を見れば、明るい茶色の髪を後ろで一つに束ね、
腕にも、顔にも絆創膏。

制服も袖をまくった、いかにも元気一筋と言わんばかりの人物だった。


「あ、ありがと」


クラスメイトを解散させてくれた本人は自分の事のように申し訳ないと、うな垂れつつも
前の席に腰をかけて、慎之助にも席に座るように促してくれた


「いいって、つうかごめんね?うちのクラス持ち上がりじゃないのあんただけなんだ〜。だから盛り上がっちゃって」


急に何かと思ったが、両手を顔の前で合わせ頭を下げる相手に
気にしてないと言えば、安心したように笑ってから


「新入生あんたみたいに優しいの奴でよかった。
よくこの歓迎に嫌気さして来なくなる奴が居るって先輩から聞いてたからドッキドキだったんだ〜」


っと人見知りを知らなそうな無邪気な笑みを向けて続ける


「あ、俺、俵屋ミツ(たわらや みつ)ミツって片仮名ね?普通にミツでいいから。
んでアンタの隣で寝てるのが津田叶(つだ かない)つう奴。
いつもこんなんだから気にしないで?」


今までの騒ぎで気づかなかったが、隣には赤茶色の髪をした少年が机に突っ伏して寝ていた。

しかもあの騒ぎで起きないというのがすごい。

半ば呆れたように見ていたが、
目の前のミツがニコニコと机に頬杖を付くのを見て慎之助も自己紹介することにした




「俺は片岡慎之助、慎之助でいいよミツ。」

「そ、じゃぁよろしくな!」


まっすぐな笑顔を向けてくるミツにつられたように笑い返せば
いきなり立ち上がるミツ。
立ち止まっているのが嫌だと言わんばかりに慎之助の手を引いた。


「さっそくだけどさ!今から部活紹介だから行こう!」

「は?こいつは?」


いきなり立ち上がって扉に向かい進みだすミツに隣で寝ていたはずの叶を指差すが既にそこに叶は居ない。


「いくよ・・ミツ、慎」

「し〜ん〜ほら早くしろって!」


ふらふらと廊下の窓の外にその姿を見つけて、寝ていたはずの机と廊下に立つ叶を交互に見る。
そこで、ふと思った




「え?何?そう呼ぶわけ?」




廊下へと飛び出て2人の後を追う、
教室に入るまで不安だった入学式もこの独特の雰囲気を持つ2人に会えたならチャラになるなか?


っと、3人で講堂に向かう中、慎之助は思うのだった・・・。










***************











私立の講堂にしては広いのではないだろうか?

無駄な装飾はなく、木目重視のシンプルだが目を引くその壇上にはマイクと花があるだけでだ。
雰囲気から言って
まだ部活紹介は始まっていないようで安堵した。

校舎の数や敷地の広さは異様だが、
講堂はパッと見ただけでは他の学校と大差なく、ごくごくあるような平凡なものだったが
ただ、その平凡と思われる講堂に
信じられない数の人間が入っているのもまた変えようがない事実で
まるで満員電車の中のように人が肩を並べ波を作っていた。

肩や足がぶつかり顔を顰めるたびに、
慎之助は来なければよかったと、小さくの溜息をついていた




「慎、離れると部活紹介終わるまで2度と接触無理だかんな!離れるなよ?」


そういって手を伸ばしてくるミツは人の流れに流され始めている。

人のことより自分の事を優先したらどうなんだと思いつつも
体の自由が利かない今の状況ではどうにも出来ないのも事実だ。

たしか1年って1000人程度じゃなかったか?
周りを見渡せば1000なんてとっくに超えていそうな人数が講堂に集まっている。



「ミツ、戻って来いって!」

「無〜〜理〜〜!つうか助けて!!」

ミツに駄目もとで手を伸ばすもあと少しという所で届かない。

「俺も助けれないって・・っ!」


伸ばし切っても空回る手に、イライラとし始め
もうどうにでもなれとミツに近寄ろうと流れに乗ろうとすれば
体にふわりと浮くような感覚が訪れた。

そのまま引き寄せられて、軽くバランスを崩せば頭に硬い感触。
見上げると、ボーと自分を見ている叶と目があった。


「自分まで流される気?」

「・・・・叶、君?」

「叶でいい。」


腹に手を回されたことなんてない慎之助はその体温と体制に戸惑いつつも
自分を支えたまま
軽々とミツの手を取り引き寄せる叶に素直に感心した。


「サンキュー!!叶!超愛してる!!」

「NOサンキュー」


余程焦っていたのか、引き寄せられてからミツは叶に飛びつくように抱きついて騒がしい。
この人ごみの中、そんなに騒いだら注目させるんじゃないかと思ったが
そうでもないらしい。


グリグリと叶の胸に顔を擦り付けるミツにも驚いたが
それをダルそうに受け流す叶も叶なんだろうか・・・。

慣れてるんだろうな。っと一人納得してしまうほど2人は息がぴったりだった。


そしてなんとか3人は場所を講堂の端に確保すると慎之助は思っていた疑問を口にした




「つうか、何この人数。」


よく人の波を見れば我先にと壇上へと近づこうとする者ばかりで
よくこんな中に入れたものだと思う。

この状況に慣れている所を見ると2人は理由を知っているだろうと思い、投げかけた疑問は
苦笑とともに帰ってきた。


「あ〜みんな、生徒会を見にくるからさ。中坊も先輩も混ざってんの。」

「学校活動のほぼ90%くらい生徒会主催」


2人の短く適切な説明に再度壇上を見ると派手な髪色の生徒が2人マイク片手に現れる。

その人が出てくると途端に静まった講堂に寒気すら感じた。
そしてその寒気を吹き飛ばすように陽気な声が講堂に響く。


「新入生のみんなぁ〜、もう一年お世話になることになったから今年もよろしくね〜?」


一人がヒラヒラと壇上から締りのない笑顔で手を振る。
その胡散臭い笑顔もさることながら、白衣のような長い制服には、絵の具が所々着いていて目を引いた。
しかし観察をする間もなく
もう一人がすかさず止めに入る


「・・個人挨拶は後にしてくださいよ。皆神さん 。」

止めに入ったもう一人は制服をきっちりと着ていて真面目そうな印象を受けた。
そして壇上から、周りを見渡せば
仕切りなおしとばかりに咳払いを一つ、そして説明を始めたのだった。





「・・新入生諸君、入学おめでとう。
今から簡単な部活説明をするから気軽に聞いてくれ?

この学校はエスカレータ式だから殆どの人が知っているだろうけど、

去年に引き続き運動部は俺小鳥遊 暁(たかなしあきら)が、
文化部をこちらの皆神千迅(みなかみちはや)さんが統括してる。

部活塔は校舎から見えるあの白い建物で、部活時間はその部活によって違う。

運動部で体を動かすもよし!文化部で芸術を極めるもよしだ。

ただし、怪我はないように。
無理もしないようにな?楽しくなきゃ部活の意味もない!
その点も運動部はしっかり考慮していてやり易いこと間違いな・・」


運動部、という言葉が出た瞬間隣に居た千迅が、説明をしていた暁という生徒の背後から抱きつき
ヘラリと笑う。


「は〜い、そこまでねぇ?暁君だって私情はさんでるじゃない?運動部ばっかり宣伝するのは反則だよ?」

首に片手を回して、何処から出したかわからない筆をクルリと回す。
その手に焦ったように千迅を見る暁はマイクを持っているのも忘れて騒いだ。

「ちょ!!何するんすか!アンタ!!」


暴れる暁、ヘラヘラとする千迅。

そんな壇上のドタバタも静まり返って食い入るように見る他の生徒に、
慎之助はただただ唖然とするばかりだった。




そのあとは各部活動がいかに自分の部活がいいかと言う事をアピールし
ミツはサッカー部へと行くことを既に決めていたらしく、
叶は特に興味がない
と始終あくびをしていた。

ミツたちに慎之助はどうするのか聞かれたが
慎之助は一芸制度で入学した生徒なので部活に入る必要はなく
他の一芸入学の生徒と同様に授業終了と同時に各自一芸を磨くという名目で部活は免除対象となっていたため
考えていないと言えば、そうなんだ〜っと気の無い返事を返されて苦笑。

あの壇上にいた先輩たちはそれぞれ、野球部と美術部の紹介に登場していたが
そこでも色々と騒がしかったのだけは覚えている・・・。

















なんだかんだで騒がしい1日だったが、
いい友に出会えたんじゃないだろうか?

今まで側に居なかったタイプだが、近くに居ても気疲れしないし
逆に楽だとさえ思えてくる。

明日はまだ授業はない・・このまま寝てしまおうと慎之助は布団にもぐった。





不安はあった、


無気力で学校事態行きたくはなかった・・・。


でも・・・






今は学校も別にいいかもしれないと思う。
明日学校に言ったらミツと叶に一番に挨拶をしようと思いながら慎之助はその目を閉じるのであった・・・。








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