start〜片岡慎之助編〜    エピローグ




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あぁ、自分の夢はこの人達には到底理解されないものなんだ・・



そう自分の頭が理解したとき
俺は家を飛び出すことも、抗うこともせずに素直にうなずいていた。
そのときの両親の喜びようは今も忘れられない・・

自分には刃向かう勇気はなく、
今思えば夢だって、幼いときの約束に固執しているだけかもしれない・・。

小さい頃からの唯一の自分の味方だった少年との約束。

小さい頃はあんなによく一緒に遊んでいたのに、
今はもう顔もぼやけてしまっている。

ただ覚えているのは、草むらでよく歌ったあの歌。
草笛を吹いてくれた少年の音楽に合わせて歌ったあの歌・・・。

「上手いな?お前、絶対いい歌い手になるぞ」
「本当?」
「あぁ!俺が保障してやるよ。」


だから・・・大人になったら・・・


・・・・・、あんな約束はきっと覚えてないだろう。
夢ばかり追っていては両親が悲しむ・・・。


だから俺は、親の引いたレールの上を歩んでいる・・・










《エピローグ》

















俺の名前は片岡慎之助(かたおか しんのすけ)

由緒正しい歌舞伎役者片岡家の二男。
この4月にしては肌寒い空の下、1時間は歩いてるんじゃないだろうか
目的の場所は一向に見えなかったりする。

高台にあるこの学園に入学してきたのには、わけがある。

一言で言えば親の進め。
詳しく言えば、この学園が少し特殊で、
一般の教育課程の他に特殊科目として一芸制度があるからだった。
飛び出た才能を枯らすことなく、育てて行くことに力を入れているらしいのだ。

そのため、学園はエリートと名を馳せている反面、変人の集まりとしても有名だった。

生徒数も1学年1000人前後。
敷地も広ければ、校舎も多い。
一つの指定された校舎を見つけるのに、こんなに苦労するとは思わなかった。



「どこにあるんだ・・。」



真新しい制服に身を包んで片手には入学式と書かれたパンプレット。
校門の入学式の係の生徒には


『1本道を右に曲がって見えた赤いレンガの校舎に係員が居るので指示にしたがい、待機しててください』


と言われたのだが、
何処かで間違ったらしくそんな校舎見えてこない。

見えるのは颯爽と生えた木々、咲き誇る花壇の花。
そして 芝生の広がった整えられた庭。

さすが私立、とため息をひとつ付きながら立ち止まり空を見上げれば
あの幼い頃の思い出と同じ青空だった・・・。


(あ〜こんな日は憂鬱だ・・・昔を思い出す・・・)


人の多い学校のはずなのに、一人で居る孤独が心を占めて気弱になってしまう。
そしてそんな時はいつも思い出すんだ・・昔を・・・。

約束は守りたかった。
唯一の俺の味方だった人だから・・。


「・・ごめん・・。」


約束は守れないよ・・ぼそりと呟いてから
校舎を探そうと再度歩き始めようとすれば今までなかった人影がいきなり視界に入ってきた。


「っつ!」


いきなりのことに息を呑むと、目の前に居た人物はニヤニヤと笑った後に
さらに顔を寄せてくる



「お前1年坊主だな?何してんだ、入学式からサボりたぁやるじゃねぇか。」



そのいかにも馬鹿にしてますといった笑みに
むっとしながら相手を睨めば見下されるように笑われた。

言動からして、上の学年であるには間違いないだろう。

着崩した制服の間から見えるアクセサリーから
黒い髪の隙間から見える赤い目まで、
すべてが存在感をありありと表していて
笑い方もきっとこれは性格を表しているんだろうか、
綺麗に笑うくせに神経を逆撫でされる・・いやゾッとするという表現のが正しいだろう。

相容れないタイプだ・・。

そう相手の顔を見ながら軽く考えをめぐらせていれば
笑みを深くして髪を撫でられる



「何だぁ?急に黙りやがって、俺に惚れたか?」



さらさらと撫でられた髪が風になびくのが横目で見える。
目をすっと細めたその笑いになびかない女は居ないだろう。

慎之助の時も止まったようにその顔を眺めていたが
すぐハッして目の前の顔を睨みつけた。



「気色悪いこと言わないで貰えますか。触らないでください。うっと惜しい」



髪に添えられた手を叩き落し
その場を去ろうと歩き出せば、
瞬間きょとりと止まっていた相手が後ろで噴出したのが聞こえた 。


「ぶっ・・・うっと惜しい!この俺様にうっと惜しい?!ぶっくく、なんだお前マジうける!!」


ゲラゲラと腹を抱えて笑う相手を横目に
さらに不機嫌になっていく気持ちを振り払うように歩き続ければ
笑いながらも追いかけてきて手を掴まれた


「待て待て。説明したのにいきなり逆方向に歩いていったバカが居るから捕まえろって言われてんだよ。」


お前だろ?っとようやく笑いが収まった相手が、
涙のたまった目を擦りながら力任せに慎之助の手を引く

言いなりになるのは嫌だったが、
なにやら入学式の会場に連れて行ってくれそうな雰囲気だったので黙っていることにした。


「俺は吉良 翔(きら かける)2年だ。お前がしょっぱな薫を無視して間逆に突っ走った勇者の片岡慎之助で間違いないか?」



酷い言われようだったのだが文句を飲み込んで小さくうなずく。


「おし、じゃぁとっとと教室に行くぞ。」

「は?教室?」

「もうとっくに入学式終わってんだよ。だ〜から教室だ、教室。」



そういいながら翔は慎之助の手を強く握って校舎へとまっすぐ向かった。
もがいても、文句を言っても軽く流されてしまい、
抵抗も面倒になった慎之助の口から溜息が漏れるたびに翔は面白そうに笑うのであった


















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慎之助を教室まで届け
渡り廊下を2年の校舎へと歩いていると
目の前からゆっくりとした足音が聞こえてくる事に翔はダルそうに顔を上げた。

そしてその人物を認識すると、口元をゆがめる。

同じ漆黒の髪と赤い目を持ったその生徒にヒラリと手を振って立ち止まれば、
相手も気づいたのか同じ顔の口元を、きゅっと引き締め

翔とは真逆の表情を浮かべ見透かしたように翔へと視線をやった・・。



「機嫌がいいな?バカは捕まえたのか?」

「ん〜?おう、薫♪お勤め(入学式)ご苦労さん。」



会話が成り立っていないことに、薫と言われた少年は溜息をつきながら持っていた書類を翔へと投げた。


「んぁ?んだコレ?」


宙に舞う書類を受け取れば密かに首を傾げる翔に、
すかさず薫が補足を入れながら口元をゆがめた。


「今日、入学式に出なかった外部生のデータだ。どうせ興味があるんだろう?」


その簡潔な説明に、やることが早いと笑いながら翔はその書類をぺらぺらとめくる。
軽く目をとおせば楽しそうに薫に向き直った。


「まぁな、あれなら薫も気に入るぜ?」



そしてニヤリと口元を歪め続ける



「なぁ薫、俺今年はあれが欲しい」

「・・・・あれでいいのか?」

「あぁ、駄目か?」


しばらく無言のまま、見詰め合う2人。
無言を破った薫は、仕方ないな。そう漏らして翔の横を通りすぎ廊下の向こうへと消えてく、
それを確認すると翔もその後を追うように歩いていくのであった・・・。。














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