Act2 小鳥遊暁

 

 夕食の片付けが終わったキッチンを借りて材料を並べた。

 まぁ、毎年の事だから多少の手順は覚えてはいる。最初の頃は、真っ黒に焦がして母親に怒られたけど。

 生徒会室のパソコンで簡単レシピとかいうのをプリントアウトしてきた。

 職権乱用?こんなもの軽い方だ。

 秤を使って、材料をきっちり量る。素人は目分量でやったら失敗すると聖夜にキツク言われたのが、初めて作った生焼けのクッキーを渡した年だった。

 冷蔵庫で生地をねかしている間に、テーブルの上にラップを長めに切って5箇所ひく。

 ついでに、棚の奥の方からクッキーの型を出した。

「おーい!生地ができたから自分の分型抜けよ!」

リビングでテレビを見ている弟妹に声をかけると一斉にキッチンに向かってきた。

「先に手を洗え!自分の分ちゃんと数えて作れよ」

生地を分けて伸ばしてから、弟妹の前に置いてやると各々星や花の型抜きを始めた。

「兄ちゃん、今年はどのくらい作るの?」

 自分の分を指折り数えながら、弟が聞く。

「学校と、チビの保育園のお母さん達と野球の子達のお母さん達の分で25位じゃないかな?」

 数が多いからといって、適当に作るのも申し訳ないから。金は掛けられないけど、せめて丁寧に作らなければ。

「で、お前は?」

「俺は、クラスの女の子からで5つだよ。」

 また、現実的な数字だ。義理ってやつじゃなく本命ってやつだろうな。弟ながら憎い。

「俺は7個。でもさ、好きな子の分って買ってきた奴上げるつもりなんだけど」

「はぁ?お前好きな子いんのか!誰だよ!何組だよ!」

 喧嘩し始めた弟二人を放置して、自分の分をさっさと焼くか。

「お兄ちゃん、私のも一緒に焼いて。デコペンで可愛くしたいから時間かかるの」

 友チョコとか言うやつがある為に、妹までホワイトデーとは大変だ。

「そこ、置いとけよ。兄ちゃんの少し減らすから」

 自分の分を少しどけて、妹が型を抜いた生地を天板に乗せてオーブンに入れた。

 焼けるのを待ちながら、次の分の型を抜いておかないと。

「にーに!これも〜」

 一人退け物にしては可哀相だと、一番下の3歳の弟の前にも生地を少し置いてやったら、案外美味く型を抜いてた。明日のおやつにでもすればいいか。

「ここ置いとけ。次に焼いてやるから待ってろ」

ホイルに並べれば、かなりの量が出来た。全部焼くまでに、どのくらい掛かるだろう。

「ほら、焼けたら袋あるから好きに詰めろよ。分からなくならんように、自分の分は印でもつけとけ」

100均で買ってきた袋とワイヤーの入ったリボンを分ける。買うよりは安いけど、こうも数があると流石に金かかるな。

でも、2月には色々頂いているんだから、返すのは当然だよな。

そう考えながら、焼けたクッキーを袋詰めしていく。

一言書いたメッセージカードを一緒に入れて封を閉じる。

学校っていうか生徒会のメンバーの分は少し量を多めに入れた。メッセージも一人づつに宛てて書いたから、間違わないように渡さなければ。

「おにーちゃん、これ使う?私の余ったから使って」

 渡されたのは、チョコレートのデコペン。妹は器用に文字を書いたり、形をなぞったりとかなりクッキーが鮮やかになってた。

「じゃあ、もらう」

 最後の一袋分。今年はなんて言ってもらえるか。

 おいしいって言ってもらえれば嬉しいんだけどな。

 そう思いながら、ハートの形をなぞってみた。


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