Act1 松本要

 

『今日こそは…』

心の中で、自分に言い聞かせるようにして商店街の一角を目指して歩く。

制服姿で、ウロウロするのも不振だろうと心を決める時間をとれるようにといつもよりゆっくりとした足取りで歩いた。

ここに向かうのも、もう3日目だ。

中々決心が付かず素通りしてしまった。

『たかが、お返しの菓子を買うだけだ。貰ったものは返すのは当たり前だろ。それだけだ』

靴箱や机に置かれたチョコレートにはほぼ名前が書いてなかった為に、ホワイトデーに何かを返すことが出来ないが、たった一つ。本人から手渡しで手渡されたチョコレートがある。その、お返しに何かをと向かった先は商店街にある小さなケーキ屋。

毎日、ウインドウ越しに見れば美味しそうなケーキや焼き菓子が並んでいる。

コンビニなんかでも良かったのかもだけど、それじゃ納得できない何かがあってこのケーキ屋にしようと思ったが、いざ店内に入ろうとしたが男一人でケーキ屋というのも抵抗があって今に至ると言う訳だ。

『別に、あいつに返すからってケーキ屋にしたわけじゃない。絶対に違うぞ』

 もう一度言い聞かせて、ドアに手を掛けた。

「いらっしゃいませ」

 店員に声を掛けられたら緊張してしまい、恐ろしくぎこちない動きで店内を見渡した。

 壁側の棚を見れば焼き菓子がバスケットにディスプレイされている。ホワイトデーのお返しにと書かれてラッピングされた物があったので、特に選びもせずそれを一つ持ってレジに向かった。

『渡すのは、あいつなんだから適当でいい』

 これは、自分への言い訳なのか?

「こちら、ホワイトデーのお返しで宜しいですか?」

 笑顔で店員に聞かれて思わず声が裏返る。

「いえ…お返しって言うか…あの…」

 そうですとでも言えばいいだろうけど、なぜかどもってしまい余計に恥ずかしくなって精算を済ませると足早に店を出た。

『こんな恥ずかしいのも、全部あいつのせいだ。』

 手に持った、ケーキ屋の袋をバックで隠すように持って家に帰った。

「いつ渡せばいいんだろう」

 思わず、口を出た言葉でまた恥ずかしくなった。

 

ホワイトデーまであと4日。

 

inserted by FC2 system