AM10:30 講堂ステージ

 

「翔様、搬入トラックが到着いたしました。如何いたしましょう?」

連絡の入った携帯をジャケットのポケットに入れながら執事の桃也がステージの上手から現れた。

「よし、そのまま搬入しろ。生徒会室のある校舎側は通るな」

「畏まりました。では、早速」

さて、何が搬入されたのか。作戦といったものの、総ての説明は受けていない。

翔の頭の中だけで実行に移されている。

チェス盤上の駒を動かすかのように、俺や生徒会役員。ついでに、うちの執事に指示を出し動かす。

「楽しそうだな。で、次は何すればいいんだ?」

俺への指令は津田と一緒に校舎内数箇所にトラップを仕掛けてくること。

死なない程度の軽いのにしたつもりだけど、まあ奴なら大丈夫だろう。

ターゲットは説明されなくても、大体分かった。この時間までに一つも翔が動かしていない人物だ。

「あー…薫はもう任務完了だ。後は、カナメが最後の足不止めしてる間にノエルが間に合えば良いだけだ。こっちはほぼ準備が出来た」

昼間だと言うのに、遮光カーテンを引き暗くした講堂の中で慌しく人が動く。

「リョーカイ。じゃぁ、座って待ってるよ」

ステージ上にセッティングされたテーブル席に座ると、ちょうど桃也がワゴンを押して下手から現れた。

「翔様が薫様にお茶を、との事でしたのでお持ちいたしましたがこちらで宜しいでしょうか?」

「ああ」

いつの間にだ。

「あー薫ってば、優雅にお茶してる!ノエルがこんなに頑張ってきたのに!」

講堂中に響くような声で叫ばれたが聞こえない振りで横を向いた。

「ノエさん、コレどこ置きます?」

「あ、ありがとみっちゃん。翔〜どこに置けば良い?」

横のドアから荷物を持たされてる俵屋と聖夜さんが入ってきた。

「このテーブルの上に置いてくれ。お、メインも到着だ」

ステージに数人の吉良家スタッフに運ばれてきた大きな箱と俵屋が持ってきたケーキドームが置かれた。

「マジ美味そう!ノエさんって、マジ天才っ!こんな彼女欲しいっスよ!」

「えーみっちゃんたら、ありがと!でも、ノエルはお・と・こ・の・こだけどね!」

ティーセットが並べられ、いい香りがする。今回のブレンドも当たりだな。

周りが騒がしくなかったな、尚いい気分だけど。

「お、まだ始まってないみたいだな」

「蓮が途中でチョコ貰ったりとかしてるから、遅くなったんだろ!」

そういえば、あまり騒がしくないと思ったらこの二人が居なかったのか。

「遅せえぞ!蓮!慎!まぁ、お前らが遅れることぐらい翔様は計算済みだけどな」

翔の笑い声が響く。

「何だと!休みの日に呼び出しやがって、来ただけでも良いと思えよ!」

「蓮一人じゃ、ぜってぇ来ないと思ったから、慎を迎えに行かせただろう」

確かに。どこまでも、一人づつの性格掴んでるな。

「とりあえず、小鳥遊一人で生徒会室に置いてきたぞ」

翔と蓮がうっかり喧嘩モードに入りそうになったところで、ドアが小さく開いて松本さんが入ってきた。

生徒会の中でも常識人だと思ってたこの人まで、翔のアホらしい企画に参加してたのか。

「ったく、せっかく集まったのに何喧嘩してんだよお前ら二人は。おい片岡、蓮の方止めろよ」

「あ、はい。って、蓮!落ち着けよ」

やっぱり、人数集まり始めるととたんに騒がしくなるな。

足を組みなおして、カップを持ち上げる。

「遅れてごめ〜ん。どう?準備終わった?」

この声は皆神さんか。

「荷物重くて遅れちゃった」

見れば、人の家のスタッフを使ってかなりのサイズの絵画だろう何かを運ばせてる。

「どうして、あなたが吉良のスタッフ使ってるんですか?」

「ちょうど帰る所みたいだったから、手伝ってもらったんだよ〜。」

俺の横の席に座ると、小さく笑った。

「みんな、なんだか楽しそうだね〜」

「何かに託けて騒ぎたいだけなんではないですか?」

そう言うと、勝手に人のカップから紅茶を飲んだ。

直ぐ横で、桃也が皆神さんの分の紅茶を入れているのが見えるのにだ!

「僕、猫舌だからちょっと冷めてる方がいいんだ。いつも美味しいねぇ、薫くんが選ぶお茶は」

そんな話、一度も聞いたことない。

「あれ?叶ちゃんだ。どうしたの〜」

さっきまで一緒にトラップを仕掛けていたけど、津田がまだ残るというから先に引き上げてきたけど。

「あのね…。校舎の1階でアキちゃん先輩に見つかっちゃった…」

「そうなんだ〜。お疲れ様だね」

皆神さんが津田の頭を撫でる。

「何だと!!叶!っ…。しょうがねーか。薫、その先にトラップ幾つ残ってんだ?」

「ルート封鎖用のトラップ含めて、ここまであと6個かな?後は、講堂の入口にタマが居るよ」

ティーセットを片付けさせて、席を立つ。

「それだけあれば、十分か。役員全員、ステージに上がれ。その他、各自持ち場に移動。照明落とせ!ターゲット到着までその場で待機しろ!」

翔の指示が響く。

ステージに置かれた数台の小さなモニターの周りに集まる。

何時仕掛けたのか、モニターには校舎中の画像がリアルタイムで転送されてくる。

コレで、ターゲットの動きを追うわけだ。

さて、ターゲットは今頃無事かな?


坂野

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