AM9:45 高等部正面玄関

 

靴箱を開けたら派手な音を立てて何かが落ちてきた。

その中から1つ拾い上げると、ヒラヒラと淡い色のリボンがかかった箱だった。

それから、甘い香り。

「まったく…、靴とおなじ所に食べ物入れるなよ」

独り言を呟きながら、床に落ちた箱や袋を拾ってバッグに入れる。

無理やり詰め込んだらしく箱がへこんだりいていたけど中は大丈夫だろう。

昨夜遅くに会長から届いた召集メールのせいで、折角の休日だってのに朝から学校とは面倒以外の何でもないが。

あの、会長が何を企んでいるのかが気になって、寒いの我慢して登校してきたところで、靴箱からチョコの洗礼だ。

見上げると、靴箱の上にまで俺の名前が書かれた紙袋が並んでる。

「はぁ…」

また、ため息が出た。さっきから誰とも会っていないのに、自分の手元にはバッグに入らない数のチョコレートがある。

どこの誰からかも分からないチョコをどう返せばいいんだよ。

貰うまでは良いんだけど、3月をどうすればいいんだよ。

生徒会室に向かおうとチョコで重くなったバッグを抱え直す。

ちょうどその時、玄関正面のテラスに人が居るのに気がついた。

休日で人気の少ない校内のテラス席で眠るように座ってる姿は、静かながら目立ったんだ。

そっと近づくと、聞こえてきたのはイビキ。

「ぐぅぅぅぅぅ…すぅぅぅぅぅ…」

そして、こいつは…

「一年!津田叶!起きろ!」

「…ふぁ…」

深呼吸してから一喝してやると、あくびをしながら目を覚ました。

「あ…居た。」

「人を指差すな!それも、先輩だぞ!」

俺を指した指を掴んで、上側に曲げてやった。

「…イタイ…」

相変わらず、掴み所が無い。

「こんな所で寝てると風邪ひくぞ」

陽の良く当たるテラス席は多少暖かいが、今日は休日で暖房が掛かってるわけじゃないから寝たら風邪を引く。

「うん。カナメを待ってた。そしたら暖かくて眠くなったから寝てた。起してくれてありがとう」

90度に近いぐらいに頭を下げて、のらりくらりとしゃべる姿はちょっとハッキリしろよと言いたくなる時もあるがこれはこれで、こいつの性格だからしかたがないんだろう。

「なんで俺を待ってたんだよ」

「手、出して。」

こう。ってゼスチャー付で手を出すように言われて、つい釣られて手を出した。

「これ、もらって」

両手を丸くして出した手にザラザラと置かれたのはコーティングされた小さい楕円のチョコレート。

それも、包装紙から出されて直にだ。

「って、おい!直に手にあけるなよ。溶けるだろうが!」

どこかに置こうにも、皿も何もない。

「津田!おいっ…」

手に持ってる包装紙を貸せって言おうと思ったところで。

「お口で溶けて、手で溶けないから大丈夫」

手から、一粒チョコを摘むと、俺の口へ放り込みやがった。

「んっ…」

「ね?」

首を少し傾げてにっこりと笑いやがった。

コレがよく他の連中が言ってる、癒しスマイルか?

ムカつくけど、怒るに怒れねぇ。

「ったく…しょうがねぇな。貰ってやるから、その包装紙よこせ。いっぺんには食べれないだろ」

 




坂野

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